< お前を想う、千一夜 >







ああ〜〜〜〜〜〜〜〜。
つ……っかれたー。
完全にやられた。
あのオヤジめ。

身体が痛え。

ずっと。
朝一に出てきて一言投げた後は何も言わねえから、てっきりそういうスタイルなのかと
思って聞けば、

「気分。」

だと?
しかも何だ、そう聞かれて俄かに方針を転換したのか、今日は朝からずっとエンジン全開で
張り付きっぱなしだ。


俺に千回振らせて千一回目を上から制す。


「違う。」


!?

じゃあもっと早く言えってんだよ!
先生とは大違いだ。


組み手に入っても大して変わらず、だ。
必要なことは言わねえ、違う時しかそう言わねえ。
闇雲に力を使って足でも縺れさせようモンなら、ここぞとばかり、容赦なく打ち込んでくる。

けど実際何なんだよあれは。え? あれだけ動いて、なぜ息一つ、切らせやしねえ。
超人か。魔人か?
世界最強なのは、もしかしなくてもその体力なのかよ。
デュエルは決まって長期戦に持ち込まれてケリか、そういうことか!?

あの様子から察するに、あいつにとっちゃあこれくらいの稽古、別に屁でもないんだろう。
十中八九、明日もまた朝から同じ調子で迫ってくるに違いない。
どう転んでも、オフなんぞ呉れる気はねえだろうからな。

どうすれば一晩でこの筋肉が、最大限休まるか―――それを俺は今から必死で考えなきゃ
ならねえ。

生肉で冷やせだの、回復ドリンク持ってきたぜだの言う奴がいねえから、
何でもかんでもひとりでやるんだよ。




おう。

月が随分綺麗に丸く光ってやがるな。




てめえの顔みてえだ。


今頃何してるんだか……


こんなことになるんだったら、
最後のてめえの飯は、もう少しちゃんと味わっとくんだった。



……


少しは俺のことも考えてんのか?
全く考えてねえか。

なんにしろ、相変わらずお前は一生懸命なんだろう。



そこで笑うなよ。

痛てててて。
胸まで痛くなってきた。







今だから言うが、俺は方角に自信がねえ。
お前の匂いは嗅ぎ当てることができても、そこまで辿り着くのが難しい。




剣の修行なんか本当はどうでもいい。


だが、
今ここで、お前を目指して動いたら、俺は却って無駄な時間を費やすことになる。



だから励むんだよ。
それだけのことだ。






俺は本当は、

もう誰の力も借りる必要はねえ。











なあ。2年て言ったら、あと何回この月を見るんだ?

24回か?それ以上か。
よし。今日から、この月を見たら一つずつ、標を腕に刻むことにする。


俺のこの腕が、戦いに臨む戦士みてえに刺青で一杯になった時、







その時俺は、動く。


お前と同じ方向に、全力で、誰よりも速く、動く。









せめてこの想いだけでも、てめえに伝わればな。
よし。じゃあ、標を刻む時、同時に精一杯心をこめて、念じることにする。














届け!!

















end




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