<愛していると、言わせてくれ>



好き、なんて言葉じゃ足りねえんだよ。


確かに俺は、紫色のタマネギにカツオ節を乗っけて、マヨネーズじゃなく醤油をかけた奴が好きだ。あと、腹巻きはやっぱり洗いたてのふっかりした感じが好きだし、夜が明ける時の、一気に紅く染まる空も好きだ。

あいつの、糸みてえな髪が好きだ。
それが俺の手の中からこぼれる時、透けて見える光の感じが好きだ。

丸っちい、頭の恰好が好きだ。
よく張った、真っ白なでこが好きだ。
それから、あの面白眉毛。でもやっぱりなんつっても、あの眼。
深い湖によく似てる。
なみなみと水を湛えて俺をじっと見る、蒼い、つやつやした瞳。

好きだ。

線の途中からついっと高くなる鼻もいい。
口はそうだな、上っ側の真ん中、あそこが出っ張ってんのが特に好みだ。
全体の柔らかさもいい。柔らかいのに跳ね返す力は強い。ただずぶずぶと沈ませるだけじゃねえ、きちんと受け止める骨の強さ。いい。当然、吸い上げる力も強い。野郎だからだ。かと思えば突然蕩けるような優しさで舌を絡めてきたりする。
その、読ませねえ感じがまたいい。つまりあいつのキスが好きだ。
息を継ぐときたまに出る声、その色っぽさ。勿論好きだが常々疑問に思ってるのは、あれを他の奴にも聞かせたことがあるのかってことだ。男は俺が初めてらしいから、機会があったとすりゃあ女だろうが、女相手にああなるか?アイツが?サンジだぞ?
とすると……あれを引き出してやったのは俺ってことになる。どうだ。凄くねえか?俺は。
フフ。更に。最初は遠慮がちに漏れてる程度のそれが段々熱を帯びて、やがて俺の動きに素直に、熱く応えるようになる。動きを止めれば、あるいは止めなくても、
堪らない様子で俺を呼ぶ。

……ゾロ……!

と。
そうやってあいつの中に力が溜まってく様子が好きだ。



だが。ここまで並べても俺は決して「サンジを好き」なわけじゃねえ。
俺の好きなのはサンジのパーツであって、このまま続けてその数が仮に300を超えたとしてもバラバラのパーツはサンジそのものにはならない。到底及ばねえ。

パーツとパーツをくっ付ける、何だかわかんねえものを足して、ようやくサンジは出来上がる。

それを、俺は……


この気持ちをどう言えばいいんだとずっと考えてて、ある時ふと思い付いた。
まさか違うだろうと思いながら口に出してみたらしっくりきた。物凄いすっきりして早速本人に伝えようとしたがまだ陽が高くて、一寝入りしたら夜になってて、様子を見てるうちに結局また重なっちまって、軽く口をあけ、反対に開こう開こうとしてる目はどうしても閉じちまう可愛い顔を下に見ながら腰を進め、ほんとによかったなコイツと会えて、そんなことも思いながらじっと見つめて、「サンジ……あい」まで言ったところでそこに物凄い大声が
被った。顔がそれまでよりさらに一段さあーっと紅くなって「こっ恥ずかしいこと抜かすんじゃねえっ!」ってそれまでの桃太郎が急に鬼に反転したみてえな形相で、え。何でだ、何であいつが恥ずかしいんだ、言うのは俺で、言おうとしてるのは俺の気持ちなのに。つか、何で俺の言おうとしてたことがわかったんだ。

一瞬鼻っ柱をへし折られた俺だったが、サンジの中に入ってる部分には全く影響なかった。
折れるどころかあいつの大声に驚いた拍子に更に深く入り込み、虚を衝かれたあいつは般若をあっという間に霧消させて、それまでよりもっと乱れた。


その後も、どうにかしてきちんと伝えようとしたが、その度に阻止される。
下手すると、髪を梳いてるだけで釘を差して来たりする。俺の手付きに何かを感じて、先制したつもりらしい。

なんでそんなに……
今度はそっちを考えるようになり、そのうちなんとなく、もしかしたらそうなんじゃないかと思うようになったのは、

あいつは「知らない」んじゃないかってことだ。

それがどういうものかを。

だから俺が口にすると混乱するんだろう。知らない世界に無理やり連れてかれるような感じがするのかもしれない。何でそんな風に思うんだかわからねえが、もしそうだとしたら、それはそれなりに、怖いんだろう。
いい物のはずなのに、何で怖い。
何とかわかろうと頑張っている最中かもしれない。

そんな、うろうろしてる様子も好きだ。


俺の方が先に気付いてお前は後から来るのか、それとも、永遠に俺にしかわからないことなのか。
できればお前もいつか思い切って足を踏み入れ、その感情を理解して、俺の言葉を素直に聞いてくれる日が来ねえかなと思う。







お前を、愛してる。

サンジ。
















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