<腕>



口下手なお前の腕は、誰よりも雄弁にお前の気持ちを伝えてくる。

有難う。

俺がOKした時はそう言って、長い間俺を閉じ込めた。

ひとり庇い続けた出来の悪い部下をついに切ることが決まった日には、背中の後ろで押し殺した悔しさが、腕を伝って流れてきた。


好きだ。甘えさせてくれ。
お前が欲しい。


そして今、お前は。

ごめん。

後ろから俺を抱き締めて、懸命に謝っている。

ごめんな。悪かった。

何が?ナミさんから連絡があった、って言わなかったことが?
その後二人きりで会って、夜遅くまで一緒に過ごしたことが?
それを、最後まで隠し遂せなかったことが?

ナミさんはお前の幼馴染で元カノで、今でも大事な友達なんだろう?
悩みごとなら、話は丁寧に聞いてあげなきゃ。
それでもしょげてるようなら、大丈夫、俺がついてる、って言って、優しく抱きしめてあげなきゃ。

俺がお前だったらそうするよ。


俺はいいんだ。大丈夫なんだ。
そんなことで気持ちは揺れたりしないから。

お前は違うのかな。
だから謝るのかな。


悪いと思わせるほど、俺はお前を縛ってるのかな。




別れるか。

そう言ったらお前はこの腕をどうするだろう。
一層強く力を入れて、俺を締め上げるか、それとも。

もしかしたら、指でそっと叩けば気持ちは伝わり、案外素直に離れて行くんじゃないか。

そうしようか。




腕の中で、ほんの少し身じろいだ。
やっぱり腕には力が入った。そして――――――



愛してる。



息を呑むのも伝わっちまう。


愛してる愛してる愛してる……

温かい腕が、俺を深く、包み込む。
ここにいてくれと懇願する。

そんなこと言われたら。
俺は。

またへなへなと、気持ちを崩して、だらしなく、お前の腕を包み返したくなる。

そっと。
叩くのではなく皮膚の上に乗せた指を滑らせて、お前の腕の、形に合わせる。

お前みたいにうまくはないけど、自分の腕に、気持ちを込める。


「よかった」

お前は言った。
成功したのか。
真っ直ぐじゃない。簡単なんかじゃない。
気持ちはぐるぐる、いろんなことろを経回って、だけど結局また戻るしかなかったんだってことが、ちゃんと……


俺は、今日も恋人を解放することが出来ない自分の不甲斐なさに幻滅する。
だけど同時に、身体の芯から勢いよく湧き起こった甘い感情に溺れてこの上ない幸せを味わって、赦された安堵で柔らかくなった唇のキスを受けた。
















付けない方がよかったかもしれない後段。


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