<あわい>



真夜中でも早朝でもない中途半端な時間に、タクシーが停まった。

ブレーキ。ハザード。
バン!
一瞬で、眼が覚める。

エンジン……。

怒ったように去っていく車に負けないスピードで玄関まで走って押し開いたドアの先に、ゾロがびっくりしたような顔で立っていた。手は、胸元で、おそらく鍵を探ったまま止まっている。

「起きてたのか」

なんだそれは。他に言う事があるだろう。
返事の代わりに思い切り飛びつく。

そこから顔だけ離して猛然とキスをした。
ゾロは後ろ手に扉を閉め、巻き付いた身体をそのままに、歩き出した。

ベッドに辿り着き、もつれ込んだところで、ふと、気配が宙を彷徨った。

「誰だ」

来た!
うまく掛かったと内心でほくそ笑む。

「何?」
「とぼけんな、……誰を入れた」

過酷だった時間をはっきりと思い知らせる掠れた声が、それでも低く、脊髄を震わせる。

怖い。
ああでも……

手を伸ばし、黒いスーツの胸に差し入れて、その奥に潜む固い膨らみを撫でた。

「殺す?」

もし俺がほかの男を連れ込んだら。








……言わなきゃよかった。もうバレた。

呆れたような困ったような顔になったゾロは、それでも十分に扇情的だ。

「何やった……」
「別に?」

隙だらけになった胸元に、ホルスターが覗いている。
そこからさっと銃を引き抜いた。

「! おい」

鈍く光る銃身を撫でる。

「弾入ってんだぞ」

口元に引き寄せ、ゾロを見つめたまま、引鉄のすぐ上から、ゆっくり、舐め上げる。

銃口がまず塞がれ、手首がぐい、と反らされた。
追い掛けてきた口にも塞がれすぐに力は抜けた。

宥めるように、丁寧に、銃を握っていた指が解かれる。
やわらかい布の上に静かに落ちたそれを、ゾロはそっと、遠くに追いやった。


熱い。

口が溶けそうだ。


乱暴に上着だけ脱ぎ捨てたゾロは熱をサンジの裸の胸に移し、貪った。



こんなに、俺を、欲しがるのに。



開くこともそこそこに、荒々しく押し入ってくる。

「っ、……っ、……! うあぁ!」

その間も途切れることなく続くキスの合間に、苦しい息を吐いた。

「あっ…… ―― ―― っ!…………」









隣にゾロが倒れ込んだ。

はーっ、はーっ。

同じようなタイミングで息を吐きながら、ゾロは下に、サンジは上に、顔を向けていた。
天窓から覗く空はまだ、白む気配すらない。

夜と、朝の、あいだ。
どっちつかずだ。

生と死の、
知る・知らないの、
繋がることと繋がらないことの、

あいだ。



もうたくさんだ。


息を整え終わったゾロが戻ってきた。
まだ関心があるらしい。

言いたいことを全部呑み込んで、サンジはもう一度、やわらかく体を開いた。


目を閉じた拍子に落ちた雫を、唇が掬い取って行った。

丁寧に、まるで何か重大な決意を告げる前兆のように。








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