<俺を、生かすもの>



砂の冷たさに、不意に意識が戻った。

おかしいな。

さっきまであんなに熱かったんじゃねえか。
足の下から、頬を照りつけ首を照りつけ、剥き出しの、腕を照りつけ、頭上から刺し続ける容赦ない陽と示し合わせて残酷に、静かに、だが確実に、自分の命を蝕んでいた。

なのにどうだ。
倒れてみればこんなにも冷たくて、

気持ちいい。

海辺の砂に、似てるなあ……

思ってもう一度目を閉じた。


ああ。
アラバスタのときはこんなじゃなかったな。
こんなにぎりぎりじゃなかった、

何よりもあの時は……
仲間が一緒だった。



何でこんなことになったんだっけ、と思い出そうとしても難しかった。

自分だけひとり、
になったのか、
最初からみんなひとり、
だったのか。


仲間の力を分散させようとした敵の目論見は正しかった……

そういってやるのも悔しいが、
なんにせよ。

奴等とて無傷ではないだろうが少なくともばらばらではなかった。

ひとり、では。






ジジジジ……

聞こえるはずのない、虫の羽音のようなバズ。
それに被る、とてつもなく速い呼吸の音が、今認識できる感覚のすべてだった。

はっ、はっ、はっ……

ああ。
これは俺の、だ。

喉も熱いな、畜生……

ひりつき切った粘膜を、守りたいのにそうできず、口は開いたまま荒い息を吐き続けた。

このままじゃ……
直に吐く息もなくなっちまう……






は……


そうか。



そうなの、か。







ごめんね。
ナミさん、ロビンちゃん。

二人のことが心配なのに、様子を見に行くことすら出来ない今の自分は、
情けない。


けどどうやら俺は……

ここまでみてえだ。



さよなら。

みんな、ありがとう。



閉じた瞼の端から涙が零れ落ちる。


と、突然、背中に力が加わり、開いたままの口に何かが降って来た。
冷たいものが中を探る――

舌、か?

すぐに冷たい水が後を追った。
貪る様に吸収する。

水だ……
水だ水だ水だ、
間違いねえ、水だ!


――助かった!


息に声が重なり、情けないほど喘ぎによく似た音が、自分の口から漏れている。

「ああ……ああ……ああ!」

再び与えられた水は、今度はその味がわかった。

すべてを飲み干した後、最初に入ってきた舌が、狂ったように口腔内を嘗め回していった。


……マリモ?


陰になった輪郭の上の方に、ようやく緑の筋を確認できる。

「もう大丈夫だ」

なんだよ……
何言ってんだよ……

なんで俺が迷って
てめえが俺を見つけてんだ。

おかしいだろ。
これじゃだいぶおかしいだろ。

お前のことは、俺が助けてやるんだよ。
助けて、やりてえんだよ。


なあ。



再び這い回る舌に、少しずつ意識が戻ってくる。

いつも俺を生かしてくれた、この、
こいつの――


こんなときにまで。


ようやくそこまで頭が回って、サンジは、今度こそちゃんと泣きながら、
ゾロと本当のキスをした。



















inserted by FC2 system