<コーラの精> 小さく、小さく、サンジが丸まっていた。 折り曲げた右脚の靴の上にケツを乗せ、がっくりと肩を落とし…… おめーはホントに、身体が柔らけーなあ。 「おい」 呼ぶとサンジはいっそう縮んだ。 「どうしたんだよ」 「……ゾロに振られた」 前向きのまま、ぼそぼそした声は聞き取りにくかったが確かにそう言った。 またかよ。 溜め息だけを吐いてやる。 で、何でその度にわざわざここまで来て、コーラの箱の前で蹲るのか、今日現在まで全くの謎だ。 「今度は本物だ」 「ホンモノ、って……」 「もう駄目だ……多分」 二度目の溜め息が出て行く。 ひとつ吐くたびに、いくつ歳喰うんだっけか? これ。 「わかったから。中で聞くから入れよ」 「いい。もうちょっとこうしてる」 じゃあせめて自販機の前からずれてくれねえか。 言うと素直に壁際に寄って座り直した。 30分後に外に出てみるとまだいる。 「お前。石になっちまうぞ?」 「苔が生えるかな……生えてくんねえかな……」 もしかして今回は、奴に見つけてもらおうと思ってんのか。 ダチの部屋に二人でいるんじゃなく、ひとりでいるところを、発見されたいのか。 はー。 三つ目。 「お前さー。でもそれはあんまりだよ? 誰かに通報されるよ?」 「……」 「俺そこのビデオ屋行ってくるけど、帰ってきてまだいたら、そのときは入ってもらうからな」 「…………」 「いいな!」 「……………………」 帰り道。雨が降り出した。 角を曲がり、直線の向こうの方に、サンジがまだ座っているのが見えた。 その前に、ゾロがいた。 「サンジ」 呼ぶ声だけが聞こえて、顔を上げたずぶ濡れの石っつーか犬っつーか黒いでっかい生き物を、ゾロが拾っていった。 3日後に電話があった。 『俺を試すな。俺を信じろ。 だって』 『へー』 『俺は人に振り回されるのは嫌いだが、お前に振り回されるのは別だ』 『へっ』 『だがそれにも限度がある んだってよー』 『さいですか』 その後、お詫びに何を作ったかだとか ゾロがどんな顔してそれを喰ったかだとか 延々と、延々と、お決まりの惚気が続いた後、「あ、帰ってきた!」 という一言を最後に電話は切れた。 「……」 俺は手の中の携帯を持ち替えて、自販機奥の邸宅の主でありアパートの大家でもある人物に、電話を掛けた。 「あ、もしもし親父?ウチの前に置いてある自販機な、あれ撤去してくんねえかな」 「なんで?いや不良がたむろってるとかじゃねえよ」 「俺が必要以上に早く老けるからだ」 ウソップのうちは弟が3人いて個室が足りず、ちょうど隣のアパートに空きがあるというので そこで一人暮らししてる……って設定。 |