<ためらい>



俺たちは、長い間一緒に戦ってきた。
ある時はお前が倒れ、またある時は、俺が死線を彷徨った。
船が危ない時もあった。
仲間の絆が怪しい時もあった。
だが離れなかった。
ずっと一緒に、すぐ傍で、お互いの呼吸を感じながら、
今、人の行くことのできる世界の半分を進み、共に笑い、共に激高し、共に諦め、
何度も同じ朝を迎えてきた。

何人もいるのに何故お前にだけこんな感情を抱くようになったんだろう。
何でお前と俺は、出会ったんだろう。

一味の中での立ち位置、年齢、生まれ育った環境。暇な時は色々考えてみたりもしたが、
ほぼ気休めに過ぎなかった。
何もなくても誰もいなくても、お前がそこに、お前だけがそこにいれば、
俺はお前を好きになっていただろう。
誰かに対してこんなに強い気持ちを持てる人間だったなんて、俺はこれまで自分で知らなかった。

こんな時、絆の強い仲間に囲まれていることは、逆に困難を呼び寄せる。
この想いが一方通行ならともかく、相手も同様なのだと知れた時は尚更だ。




船長のいない船首付近に二人きり。
それは奇跡に近かった。

一つの大きな戦いが終わり、船はまた新しい世界へと走り始めたところだった。
目の前にはどこまでも続く穏やかな水。舳先がそれを分ける規則正しい響きと、時折微かに
船底から届く船自身の声が聞こえていた。


また次だな。お前が前を向いたまま言った。
目の端に、風に揺れるお前の髪だけをほんの僅かに入れている。それをよく見たいと思ったが、
やはり同じように前を向いたまま、ああ、と答えた。

終点までどれくらいだろう。
何の約束もない俺たちは、航海が終われば離れ離れだ。
あとどれくらい、一緒にいられるんだろう。
新しい世界に思いを馳せながら、今手にしている幸せを思った。

意味のある沈黙が、広い広い海に支えられた小さな船の上、互いの身体の間に熱を持って
漂う。

不意に横の顔が振り向いた。何か話し掛けられるのかと思ったがそうではなかった。
ゆっくりと近付く顔は、気配を纏っていた。
驚いたが、懸命に制して、それを気取られないようにした。
密度の濃い空気を押して、顔が更に近付く。

本気なのか?
これまでのバランスを、今壊す気なのか?
胸が張り裂けそうに高鳴って、でも、もう、こうなったら俺はどうしようもねえよ、と
降参しそうになった時、それまで一直線に近付いていた顔がふと躊躇いを見せた。
戸惑ったように速度が落ち、こちらの様子を窺うのがわかった。


俺を、気遣った……      ?

ああ。


だったら俺も、これ以上は進めねえ。
二人の間の空気はあっという間に色を変え、それでももう止められなかった顔をお前は俺に
ぶつけてきて、俺はそれを必死に手でガードした。

お前は構わずその手のひらに口を押し付け、俺は、俺たちの間に立ち塞がった自分の手の表に、

精一杯のキスをした。













口が離れてお互いに、照れ隠しの意味で笑ったのか、
何もしなかったのか、

覚えていない。




夢みたいな、凄く長い、一瞬だった。
その記憶が、何度も何度も俺を幸せにし、同時に苦しめる。

何であそこで引いたんだ。
何を躊躇った?
そして何故俺はその逡巡に、素直に応えたりしたんだ。

お前がもっと一気に来ていたら、
俺がお前の戸惑いなんか吹っ飛ばして強引にこっちから迎えに行ってたら、


どうなっていただろう。
俺たち、引き返せないところに二人で行って、皆に白い目で見られて、
船降りてたりしてただろうか。

それでもちゃんと、幸せだっただろうか。



あんな好機はもう二度と訪れないかもしれない。
闘いの最中、刃先や脚の先にほんの僅かでも躊躇いを見せることは下手をすると死に繋がる。
そんなことはよくわかってるのに、
こっちは。


ああ。




大きなため息をついて、
俺は船のコックとして、また新しい朝の食事の支度に掛かった。
























告白し合ってないバージョン(笑)。
次に機会があるとすれば、ラフテルの前あたりかなあ。あーあ。ゾロのバカ。(えっ)

元ネタはH&W映画の”特典映像”ですいません。あそこにW君の本気を見ました。だぁから結婚なんか
しなけりゃよかったんだろ?あーあ。




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