<善意善意と天はい>





屯所に戻ったとき、
総悟の機嫌は、治るどころかさらに悪くなっていた。

一番に辿り着き、バズーカでぎりぎり開けたりして戸のガラスにひびを入れ、
それでもまだ我慢できぬと言う風に、
畳の上にそれを投げつけると開口一番、静かに怒声を放った。

「いい加減にしろよ」
「総悟」
「何が証拠不十分でぃ、こちとらきちんと調べ上げてから出かけてンだ」
「総悟」

瞳の色は落ち、冷たく燃えている。

「ったく……天人、天人って……いつまで俺達ぁこんなこと続けるんですかぃ」
「総悟、もういい」

取った手は、
震えていて、
冷たく、
肩を落とした様子とあいまって、
その指はいつもより痩せて、頼りなく感じられた。

視線が上がる。
射程が定まる。

「いい加減にしろっていやぁアンタもだ、土方さん」
「あ?」
「なんでぇ怪我なんかしやがって」
「これはお前……」
「ここか!」

血の滲んだ脇腹の辺りを思い切り叩かれた。

「痛てっ!いててててめえ、何する、やめねえか!」
「あんなとこで出て行くからこんなみっともねぇことになるんでさぁ。
ホラ、どうだ、痛ぇか」
「だから痛ぇっつってんだろ、やめろ!」
「惜しかった……これがあとちょっとでもずれてたら」

薄茶色の瞳が海の水のように揺れる。

「あそこで近藤さんを庇うのは当たり前だろう」
「そんなことを言ってるんじゃない!」

珍しく真っ青になった。
苦しそうに、肩を震わせ短い息を吐く。

「興奮すんな。胸に障るぞ」
「余計なお世話でさあ」
「総悟。俺達しかいねえ、普通に喋れ」
「イヤだね」
「総悟」

包み込む腕を払おうとはしなかった。
顎を肩に乗せ、あやすように揺らしてやる。

普段冷たく見せているコイツの中に、偶に思い出したように浮かぶ
激しい思いの熱が、

少しずつ、収まるように。

『近藤』組の隊士の一として、他の皆に混じり、
また何食わぬ顔でそこにいられるように。
そうしてまたお互いに、
共に、
前を向いて戦えるように。

「土方さん」
「ああ」
「大っ嫌いでさあ」
「ああ」

遅れて戻ってきた隊士たちの足音が響いて、
総悟は静かに腕を抜け出した。











(やっぱり沖田君は軽く<胸を病んでる>方向で/笑)

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