<たった一人、夜星空に詫び>
陽が落ちかかっていた。
窓の小さな部屋の中は既に暗い。
それでも、僅かに残った強い緋が、射るように、
総悟の顔の半分を打っていた。
「よせ」
「総悟」
「それ以上近付いたら、本当に死んでもらいやすぜ」
聞こえぬはずはない。
だが、足は止まらなかった。
今まで目にしたことのないような、静かな歩み。
そこにふと優しさすら感じて、
ぞくぞくと、一層の寒気が身に襲いかかる。
「何で、姉上じゃねえんだ」
「……」
「姉上のとこに…っ!」
骨が折れるほどの力で羽交い絞めにされ、
不覚にも、うろたえそうになった。
「こ、近藤さんが黙っちゃいやせんぜ」
「関係ねえ」
「俺たち三人、おんなじところに立ってなきゃ、あの人はそう……」
「うるせえ!少し黙ってろ!」
総悟は大人しく口を噤んだ。
自分を押さえ込む力の中に、悲しみを見て取ったからだ。
反撃のよすがをつかめず、ただされるがまま、
土方の腕の中で、途方に暮れる。
やがて万力に挟まれたかのような締め付けは少しずつ弱くなり、
硬い隊服と皮膚の間にぼんやりと熱を感じる程になった。
「これっきりだ」
「え……」
「もう二度とてめえには近付かねえ」
「土方、さん」
「俺だって、どうしたらいいかなんて、わかんねえんだよ!」
畜生、と小さな声を残し、体が離れていき、
土方は最後に火のような眼差しを寄越した。
そこにみるみる苦渋の色が滲むのを見て、
胸の中が掻き毟られるようにざわつく。
去っていく背中に向かって堪らず総悟は叫んだ。
「だからって、死に急ぐんじゃねえぞ、この野郎!」
たっぷり間を取って振り返った時、
暗闇に溶けようとするその姿の、表情を読むことは難しかった。
静かに土方は言った。
「俺を殺すのはてめえなんだろうが」
そのまま障子を開けて出て行った副長の反対側に体を向け、
仲間のところに戻ろうとした。
顔を上げた先は本当に暗くて、
視界が霞んで何も見えないのはきっとそのせいに違いない、
と総悟は思った。
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