<鈴を揺らす名前>









「あっ……!」
「おう。てめえは」
「えーとあの!」
「おおおおう〜〜〜、おめえはああああああ」
「あん時はよくもフザケた真似しくさってくれたなあ」
「おお〜〜ぅ」
「あん時?」
「あんなチャラけた刀振り回して呉れやがって四番隊風情がよう」
「隊長が持ってかなきゃ俺たちの手できちんと最後まで面倒見てやったっつのに」
「あん時あん時……ああ!あれは僕じゃなくコンさんが」
「はあ?ナニ寝ぼけてんだこのタコがぁ」
「おら、やっちまえ」


きゃーーーーーーーーー。





聞き慣れた悲鳴を辻一つ向こうに聞いて、丁度隊舎に戻る途中
その場に居合わせた荻堂は、急いで現場に駆けつけた。


「何をしてるんです!」
「あ! 荻堂八席ぃ〜」

ぱっと猛者共の呪縛から逃れた小さな身体が荻堂の後ろに回り込む。
懸命に死覇装を握り締める手が小刻みに震えているのがわかった。


「なんだてめえは?邪魔するつもりか?」
「あなたたちこそ、何なんです! 一人を寄ってたかって……卑怯極まりない!」
「あんだとぅ!!?」

荻堂の眼が敵の頭数を素早くサーチした。


(五人か……ちょっと多いな)



だがそのとき、全員の動きが同時に止まった。


この、地を揺るがすような響き。
遠くから徐々に匂わせるのではなく、
すぐ近くまで接近してからいきなり内臓を掴むが如くの力で迫ってくる。

誰もが一様に恐怖を感じ、それでは足りず、壁に後ろ手をつくものも出た。
今度はそれとわかるくらい身体全体を震わせ始めた花太郎の前で、
荻堂は足を踏み締め直した。




「お?」
「隊長!」


下級隊員は全員が棒切れのように直立した。


「なあにやってんだてめえらは」
「は!ええ〜いやなに、ちょっと落とし前を……」


高いところから、熱光線のような眼光が落ちて隊員に注がれ、
次いでその顔の向いた先にいる荻堂と花太郎を射した。
可哀相に、花太郎の小さな身体が一層丸くなるのが背中で知れる。


「ああ?」


隊長がもう一度隊員を振り向くと、五つの頭が同時に、千切れんばかりに縦に振られた。



「ハッ!」


その顔が途端に力を失い、眼光の元電源が落ちて、上半身中の空気が一気に吐かれる。
家一軒位の火事なら消せそうな程の風圧があった。


「つまんねえ。ネズミ相手に馬鹿馬鹿しい。そんな暇があったら道場行って稽古しろ
アホどもが」
「でも隊長、十一番隊の面子が!」


隊長の三白眼がほぼ全面白になった。



「……勝手にしろ。ただし……俺が呼んだら遅れんなよ」


はい!それはもう!
お許しを貰って湧き上がる隊員たちが改めて荻堂たちの方を向き直って舌なめずりする。


荻堂は腹を決めた。
五人……これまで経験はないが、何とかなるだろう。


「待ってください。上官の不始末は部下の責任。ここは一つ、僕が代わって責めを負います」


≪世間≫の常識とはかけ離れたことを言ってみるが、どうせ相手は血の気は多くとも
頭の軽い連中揃いの十一番隊、気付きはしないだろうと思ったがやはり誰一人、
それはおかしいだろう普通は逆じゃねえのかと、異を唱えるものはいなかった。



五人のうち、ようやく意味の通じた者の顔が面白そうに輝く。
だが口を開きかけた途端、行きかけていた隊長が突然振り返った。
その動きに合わせて、再び空気がゴウ、と鳴る。


「あ? なんだてめえ」


強さの戻った眼に打たれ、それが間違いなく自分の事を指しているのだと荻堂には
理解できた。


「面白ぇじゃねえか、てめえひとりでそいつらの相手しようってのか」
「ええ」
「ほう〜〜〜〜〜」


凶悪な顔に楽しそうな光が差した。


「てめえ、強ぇのか?」
「……それなりには」


ぎゃーっはっはっは。
四番隊がなーに言ってんだ笑わせるぜ、がはははははは。



「荻堂さん、荻堂さん」

花太郎が消え入りそうな声を出し後ろから袖を引く。

「大丈夫ですよ、七席。心配しないで」
「でも荻堂さん」


「気に入った。よしお前、俺と戦え」


はっきりと場を切り裂いたその一言に、この展開を予想していたとはいえ一同はやはり
凍りついた。

また?もしかしてまたなのか?まぁた隊長が持ってくつもりか?


「駄目です、荻堂さんっ!!!」
「わかりました。でもその代わり、七席は解放してくれますね?」
「ああ。てめえのその無鉄砲さに免じて赦してやらあ」

男たちは一斉に口を尖らせたが、隊長に逆らえるわけもない。
泣きじゃくる花太郎を逃がし、その姿が小さくなるまで慎重に見送ってから、
改めて荻堂は、目の前に聳え立つ小山のような男に対峙した。


「では参りましょう」
「あ?何だ、ここでやんじゃねえのか」
「ここではちょっと」


近くに寄り耳を貸せと言う素振りをする。


「出来れば隊舎の中で……」

素直に頭を傾けた大男の目が訝しげに光った。

「屋内戦か?」
「ええ」
「ふーん。まあそれもまた珍しくていいかもな。だが物がぶっ壊れたりしねえのか。
面倒臭ぇのは御免だぜ」
「それは……貴方次第です」
「へっ」

今度は隊長が、蛇のような顔で舌なめずりをした。


「面白ぇ。わかった行こうぜ。おうてめえら!」
「はいっ!」
「一足先に行って稽古してろ。後で俺が順番に面倒見てやる」
「はいっ!!!!!」


これで今日の労力は二百倍決定だった。
だがやはり、誰も文句の一つも言えない。
重い足を無理矢理前に出し、いかにも楽しそうな振りで全員が道場に去った。





***





荻堂は、更木の歩幅に合わせてその横を小走りに進んだ。
途中、鬼のような横顔が、ふと唸った。

「おいお前」
「はい」
「お前は俺が、怖くねえのか?」

荻堂は微笑んで告げた。

「怖くはありません」


「そうか」

それを聞いて、何故か更木もまた笑った。





隊舎の中は、しんと静まり返っていた。
真っ直ぐに隊長の執務室へと向かう。



「さあ着いたぜ?」
「ではまず、座って下さい」


更木は怪訝そうな顔を見せ、
だがそれでも素直に言うことを聞いて背の高い自分専用の椅子に腰を掛けた。
そこへいきなり圧し掛かり、有無を言わせず口を塞ぐ。

近付いてみれば闘鬼の肌は、
思っていたような血や、肉や、あるいはもしかしたらその焼けた煤、
ではなくどちらかと言えば森林に近いような匂いがし、
それを荻堂は少し意外に思った。


更木は眼を見開き、確かに驚いたようだったが、
荻堂を部屋の端まで吹っ飛ばしたりすることもなく、
しばらくの間、両頬を支え一心に貪る荻堂をそのままにさせていた。


ちゅ、と音を立てて唇が離れる。


一瞬見合ってから、再び口が合わされた。
今度は舌を探ろうとする荻堂に更木の方が強く応え、その交わりがさらに
深くなろうとした矢先、大きな手が力強く荻堂の後ろ髪を鷲掴んだ。


ぐい、と引かれ、痛みに涙が滲む。


「何の真似だ」
「たた……かい、ですよ」
「フザけんな、この男娼が。てめえんとこの隊じゃあこうやってみんなで稽古してんのか」
「違、う……」
「舐めやがって」


ゴゴゴゴゴゴ。

辺りに振動が走り、窓のガラスと机の上の書類が一斉に鳴り出した。




「後で掻っ捌いて、バラバラにしてやるから覚悟しろ」
「はい」
「箱詰めして送りつけてやるからな」
「はい」



更木が再び髪を掴む手に力を籠め、今度はそこに勢い良く顔をぶつけた。
自分の気の済むように手の中の顔を傾け、容赦なく襲い掛かる。
息を、奪うつもりなのかもしれなかった。

気が遠くなりそうになった頃、漸く力がやや緩んで、
長い舌がべろりと顎を舐め上げ、また口を吸い上げ、顔から少し離れたところで声が轟いた。


「ったく、しょうがねえ淫売野郎だな……女みてぇなツラしやがって」


だが荻堂が見返すと、ほんの少し、更木の怒りが引いた様に見えた。





――怖くはありません――





何だ、コイツは。

遠い記憶が蘇る。

酔狂な。
アイツだけじゃ、なかったってのか。


口の端を歪めて、思い切り、その鹿を思わせる首筋に噛み付いた。


「くっ……ぅ」


このまま噛み殺してもいいが、力もないくせに自分を前にして少しも怯えたりすることの
ない存在が、稀有に思える。

あの一護でさえ、
目的が果たされたその後は、まるで手の平を返したように、
自分から必死になって逃げ回っていたのだ。


それが……この男ときたら。



もうひとりのネズミを逃がす。あんなのが大した決断だったとは思えねえ。
むしろ。
まあどっちでもいいが取り敢えずその方が話が早い、とでもいうような、

まるで覚悟の見えない

……判断。


何を考えてやがる。



量りかねて首筋を解放してやると、
苦しかったのか、荻堂は大きく息をついた。



「ホラ……とっとと咥えろよ。時間がねえんだ」


そんな言葉を投げつけても、荻堂の顔は歪みもしない。
むしろ楽しそうに、すっきりと膝を付き、幾重にも重なった重い布を手馴れた風に避けた。


「ふ……」


ゆっくりと、熱い湿り気が這い上がり、
更木は思わず深い息を吐いた。



「て……めえ」


そこに突然飛び込んできた甲高い声に驚き、
反射的に制したのは更木の方で、
荻堂は、止められなければそのまま頭を動かし続けていたところだ。

声の主の方を、見ようともしなかった。


「剣ちゃん!」
「おう、やちる」
「いつ帰ったの」
「今だ」


副隊長が部屋に入ってくる気配を見せる。


「何してんの? 早く遊ぼうよ。ん?それ誰?」
「ちょっと待ってろ、すぐ済むから」
「うん」
「先に、外行ってろ」
「うん」

小さな身体から、波のような毒のような、重く、激しい気が放たれる。
副隊長はもう一度更木に促されるまで、一歩も動こうとはしなかった。


「うーん、じゃあ……早くだよ!」
「ああ」





「はあ……怖いですね、副隊長は」

その気配が完全に薄くなるのを待ってから荻堂はやっとのことで口を離し、
初めて感情を顕にした。

「あ? 何が」
「物凄い殺気を感じました。腰から下が千切れそうだ」
「……?」

そんなことはどうでもいいから早く、と更木が荻堂の頭を揺らす。
髪を掴む手は先程より少し柔らかく、だが容赦なくそこに更木は自らの欲望を叩き付けた。



「ん……」
「はっ……っ……」


駆け上がり、更木一人が僅かに息を上げる。
荻堂の方はまだ平気な顔で、今度は自分の着衣を開き、更木の上に跨った。
更木が軽く口をあけたまま、呆れた顔を作る。


「てめえは。まだ続けんのか」
「だって……まだ、途中でしょう」


放っても尚萎え切ることのない凶塊を、二、三度扱かれ迂闊にも声が出た。


「あぁ」
「……隊長」


丸い声が出て、優しく唇が塞がれると、
更木は堪らず、すぐ目の前に近付いた上半身を乱暴にはだけ、細い胸の辺りに
喰らい付いた。


「ああ!」
「てめえは!今までどこに隠れてやがった」
「何……んん!」
「ずっとあのロクでもねえ四番隊か」
「そう……ですよ僕はずっと」
「俺の傍に来い」

「……イヤです」


思いがけない言葉に、滅多に人に反抗されることのない鬼が眼を見開いた。


「何だと」
「僕はあそこが好きなんです。それに」
「それに、何だ」
「ここにきたら間違いなく……草鹿副隊長に殺されます」
「……」

黙っていると、荻堂が自らの内に更木の男根を埋め込んだ。


「……っ! は……ぁ」

更木はまた呆れ、その場所をとくと見た。

「腹が破れても知らねえぞ」
「ん……そうなったらそうなったで、別に」
「あ? それで死ぬのはイヤじゃねえのか」
「……イヤでは、ありません。隊、長に……殺されるなら」



荻堂は一度笑うと、ぐっと歯を食いしばった。
ゆっくりとそれを緩め、益々深くその身体を沈めていく。
下を向き、懸命に耐えていた顔が戻ると、額には脂汗が一面に滲んでいた。
溜まった涙がつ、と流れ落ちる。


「馬鹿な奴だな」
「七席のこと、有難うございました」
「ハッ!……」


柔らかい髪に、今度は正面から手を掛け引き寄せ口付けた。


「んん」



埋まり切った塊をあやすように揺らすと、荻堂は耐えかねて呻いたが、
それでも律儀に、少しずつ、自分から動こうとする様子を見せる。

口を離そうとしないのは一体どちらなのか、
いつまでもそこに執着したまま荻堂は器用に身体を熟れさせ、
次第にその動きは規則正しいものになった。


ちり、ちり、ちり……


更木の頭の周りで可愛らしい音が鳴る。
気がついて荻堂はまた微笑み、今度はそこに手を伸ばした。




「あ……隊……」



……

……




「……更木、さん」




その瞬間、更木は固く荻堂を掻き抱いた。













「てめえ。名は?」
「荻堂、春信です」
「そうか。また……気が向いたらいつでも来いよ」
「はい」
「いや待て? こっちから行ってやってもいいぜ。そんときは……」

更木の手が、着物を調えていた荻堂の耳から首に落ちた。

「絶対逃げるなよ」
「ええ」



隊舎を出ると、陽は既に傾きかけていたが、それでもまだギラギラと、
油のような熱を保っていた。

まるで懸命に悪い素振りを見せ付けるような光――

それを片手で覆い、顔を横向けて荻堂は歩き出した。



衆人環視の場で前隊長を惨殺して今の地位に立ったあの男が、ずっと、
自身の斬魄刀の名にすら興味がなかったというのは、大抵の死神の間では
良く知られている事実だった。


なのに……。


(てめえ。名は?)


「面白い」


荻堂は声に出してそういうと、薄く笑い
軽い足取りで、今度こそ自らの所属する隊の方へ、歩き出した。
























やられたな……剣ちゃん。(笑)
そして抜かりなく、七席にも貸しを作ってしまう荻堂!
剣ちゃんは何もかもがデカイ男なので、荻ちゃんは色々と大変でしたが、
無事、ミッションクリア!
最初十一番隊の五人を見て何を考えていたのかは明白(二笑)、
ったく。死神の上に魔性なのか君、荻堂クンんん!

私としましては、弓親とのエロエロ対決なども、ぜひまた見てみたいと思うのでございます。
失礼致しました(礼)。














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