丸二日が経ち、漸く命の気配が確かになると、ルフィが「じゃあな!」とあっさり腰を上げた。
いや実のところ、そこまで付き合ったのが不思議なほどだ。

「これからどこへ?」
「わっかんねえ。でもまあ、また何かあったら呼んでくれよ、それで」
 
置きっ放しの法螺貝を指差し、顔を崩す。そこにまた、あの声がした。

「どうもー」
「エース!!」
「王様は?」
「……大丈夫だ」
 
その声にサンジが目を覚まし、無理をして起き上がると改めてその協力に対し礼を言った。

「っ! 俺のこと、見えてたか?」
「ああ。一緒に戦ってくれてたろ」
「はあ〜。俺もまだまだだな」
 
その意味はわからなかったが、この男が裏切らず、精一杯力を貸してくれたことは、嬉しかった。

「ところで」
「ああ」
「今日は交渉に来たんだ」
「え?」
「捕虜の身柄をそっくり、こちらに引き渡してもらいたい」

ゾロが体を硬くする。ユバで起きた騒動はバラティエの国内で片付けるのが筋だ。
それを……?

「黙って同意してくれれば、悪いようにはしねえ」
 
サンジは少し考えると言った。

「いいぜ」
「サンジ!」
「今のバラティエには裁判所は愚かまともな警察もねえ。そっちがそれで用が足りるなら……
アンタに任せるぜ、エース」
「ああ……やっぱり最高だな、サンジ」
 
ちゅ! と落ちた高速のキスを、誰も止めることはできなかった。

翌朝、トナカイドクターの渋い顔を押し切って、サンジはカウボーイに跨り村を出た。

「王様! 王様!」
 
村人がどんどん後から付いてくる。列が出来上がりパレードのようになって、そのままプルトンの
眠る地に足を運んだ。
小さな石碑の前でサンジが馬を下り、跪くと、全員がその後ろでやはり膝を付き、頭を垂れた。
サンジは石に、何かを語りかけているようだった。だが聞こえなかった。
ゾロの耳にすら、届かなかった。
 
サンジが村人を振り向く。
辺りは水を打ったように静まった。

「みんな。有難う。これから……またあれこれ大変だが」
 
息を吸って一八〇度を見渡す。

「一つ宜しく頼む」
 
ワーーッ! 歓声が上がり、万歳の声が沸き起こり、ごく自然に、国歌が始まる。
ゾロはそれを見ながら悟った。
まだまだ。足りねえモンはたくさんあるが。取り敢えず、ここの人間の気持ちは掴んだみてえだな。
そして、と思う。
この先どんな困難が襲い掛かろうと、真っ先に飛び出し先頭に立って国を護ろうとするのは
こいつだろう。ギリギリのところで盾になり、踏ん張って……
 
それで最後には、何とか乗り切っちまう。
きっとそうだ。そんな星の下、生まれついてんだよコイツは。
 
よかった。
ほんとうによかった。
 
心から安堵して、詩人は胸の中の息を大きく吐き出した。














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