高い天井のその部屋の真ん中で、ぽつんとひとり、男は横になっていた。

糸のように流れる髪も、しなやかな手足も、すっきりと伸びた首筋も
疲れた着衣の乱れから垣間見える肌も、
―――その真ん中で穏やかに上下する胸も。

全てが男の本質を告げてはいたが、
口元に吐き出される、耳を近付けなければわからない程度の小さな寝息は、
その場所にだけ、玩具のような遊蕩の世界を作り上げていて、
輪郭のはっきりしない儚いそれを、
頑なに守り通そうとする決意であるかのように、
その少し上では険しく眉根が寄せられていた。

可哀相に。
肩の辺りに不自然な力を溜めて―――、

もう長い間、深く落ちることを忘れている眠りに見えた。



荒れた地の果て

眠る黒衣の王



男の睫が震え、覚醒の気配が浮く。

カタン。
は……?
どこかで何かが。
声、か?

男がゆっくりと意識を戻すのと同時に、冷気がふわりとその身を覆った。
まるで誰かの手が毛布を掛けたような優しさで。

あ……明りぃ……

闇がほんの少し気を抜いただけでも、男にはその気配がわかる。
夜とも、明け方とも、それほどには親しい間柄になっていた。
いつの間にか、手から離れた酒器が床に転がっていて、
目を覚ましたのはその音のせいかと男は思った。



首を回す。
どうでもいい気もしたが、見てしまった手前、と小さな錫の器の方に体を向け、
精一杯に腕を伸ばした。
指先に触れたちりっとした感触は思いの外冷たく、そのまま持ち上げると、
手のひらの半分ほどの大きさが、訴えるほどに重い。

なに? ああ。
まだまだ呑ませ足りねえって、
そう言ってんのか……
ハ。俺としたことがこんなにあっさり沈没しちまってザマあねえ。
ん……ちょっと待て、今すぐ、ホラ……

適当に伸ばした反対の腕が、善意の手製カバーを探り当てる。













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