<warm gun> 敵の放った小さな矢に、腰の自由を奪われていた。 仲間のうちでそれを受けたのは、ゾロひとりだった。 剣を自在に振るう腕の、身体の、どこかに大きな隙、というより驕りがあったのかもしれない。 チョッパーの打つ注射よりも小さな刺激には怯みもしなかった。 そのまま、刃を鳴らし続けて突然崩れた。 「ゾロっ!?」 傍にいた船長の機転と鍛え上げた上半身のお陰で、命は辛うじて繋がった。 「はっきり言うよ。50%だ」 手を尽くした医者は、怒ったように言った。 他のところは何でもない。 食欲も普通にある。 鍛錬だって出来る。 ただ、背中の下から足の先までの感覚がなく、動かすことが出来ない。 調合した薬を飲み続け、拷問のようなリハビリを繰り返せば、気まぐれに神経が復活するかもしれない。 ゾロのためを思って椅子に車輪をつけようと工具を握ったウソップを殴り飛ばしてナミに引っ叩かれた。 それなら、と肩を貸すくらいに仲間たちは優しかったが、ゾロはその好意も撥ね付けた。 枕元に置かれた真新しい松葉杖を見て、号泣した。 3週間が過ぎた。 マストを腕だけで登り戸板を跳ね上げる。 今度は降りて、杖を甲板に投げる。 もう一度昇って行って這い上がり、杖に縋り、階段の下からまた杖だけを上げる。 段差を肘で捉えながらよじ登り、意地で杖を頼って、掻いた汗に寒気と眩暈を覚えながら扉に指を掛けた。 「はっぴね〜す」 甘い匂いがする。 「いずあうぉーむがーん……」 カステラだ。みんなの大好物だ。ゾロも好きだ。 上がる息を響かせた。 「あったかいガンも、あったかいジュースも、もう随分ご無沙汰だけど……っと」 オーブンの蓋を開け、サンジが屈み込んだ。 「よし」 ミトンの嵌った手で蓋を閉め、身体を起こし、振り向いて、口の端を僅かに上げた顔でサンジが言った。 「よく来たなあ」 杖を進めると、サンジが後ろに回って扉をきちんと閉めた。 それから先回りして椅子を引いた。 「痛ぇの」 「脇の下と肘が」 「へえ」 ゆっくりと、煙草に火を点ける姿を久々にじっくりと拝んだ。 あの矢が別のところに当たっていたら、どうなっていたろう。 「……悪かった」 「何が? あ、さっきの聞こえた?」 聞かせたんだろうがよ。 突然、力強い手が頭の後ろに回り、引かれ、乱暴なキスが降ってきた。 目の端に涙を溜めているくせに、声は乾いていた。 「出来なくなっても好きかよ、俺のこと」 「当り前だ」 「バカだろ」 「ああ」 「もう……何に怒っていいか、わかんねえよ」 大きく広げた腕の中に、サンジが収まった。 弾みで杖がテーブルの縁から外れ、音を立てて倒れた。 足を跨いだ身体をしっかりと抱き直し、シャツ越しに膚を感じ、匂いを嗅いだ。 ゆっくりと舌を絡ませ、長く丁寧な口付けを交わした。 シャツのボタンを外し、手を差し入れ、そのまま背中からズボンの中まで指を進ませると身体が跳ねた。 反対の手も加え、両側から中指だけを捻じ込もうとして、思い直し、ベルトを外してからもう一度肉を割った。 サンジが一旦離れ、ズボンを脱ぎ棄てた。 硬く立ち上がった芯に触れ、扱き上げる。 もう一度指も後ろに回し、そこに捻じ込み、両方の手を連動させてサンジの放出を促した。 盛り切った目が強くこちらを睨んでいる。 手が、ズボンの前に掛かった。今では、大きくなったチョッパーが、毎日脱がせてくれるズボンだった。 「おい」 「……勃つだろ」 「……」 「今なら」 目の眩むような奉仕に違いない。プライドの高い男が頭を下げ、必死に舌を使っている。 揺れる金髪に手を伸ばした。 息はもう、上がらなかった。 「サンジ、もういい」 「……っ」 「―――俺に入れろ」 ぎらぎらした目がまた睨んだ。 「何だと」 「ずっと言ってたじゃねえか」 いつか入れてやるって。 大事なことなのに、最後までいかないうちにサンジが掻き消した。 「ふざけんな!そんなこと言ってねえよ!」 「……」 「おれが?お前に?バカかお前、俺の前で、レディみてえに泣きてえの?なあ、違うだろ。それじゃあ剣豪じゃねえだろ、世界一なんて狙えねえだろ。お前の間違いだ。俺は……」 ほんの少し、ふやけて膨らんだゾロの上にサンジが勢いよく身体を乗せ、それでも貫こうとして失敗した。 「……っ、なあ……っ、早く……これ入れて……突いて突いて、めちゃくちゃにかき回して、……俺の中でぶちまけろよ、ゾロっ」 木偶と化した肉の上で、しなやかな肢体が跳ね続けた。 「なんだよ……やめろっていうときはやめねえくせに……バカ……っ……っ」 涙がだくだく流れ、下半身丸出しの、ただのガキがそこにいた。 「ゾロ……ゾロ……ああ……代わってやりてえよう……」 やがて動きは少しずつ緩やかになり、サンジは静かに泣きながら、頭をゾロの胸に押し付けた。 ゾロはもう一度サンジを抱き締め、萎びた肉塊を二つ挟んで、お互いに身体を温め合った。 途中、匂いにつられて行進して来て入口で撃退されたガキ共が再び戻ったとき、サンジは鼻を啜りながらシャツのボタンを留めているところだった。 静かに扉が開き、一緒に入ってきた女たちを見て、収まっていたサンジが再び崩れた。 「なぁびざーあ〜〜ん〜〜〜」 シャツの裾を出したまましゃくり上げるサンジのもとにナミが近寄る。 「あーあー。まぁたこんなに泣かされて」 また? 「おーよしよし」 ナミが優しくサンジを抱きしめ、背中をそっと叩いた。 「あ、ずるいぞナミ!おれもよしよししてくれ!」 「うっさいわね。話ややこしくなるからあとにして!」 「……ひっく」 ロビンのハナハナの手がサンジのハナを拭いた。 なんだここは。 保育園か? 思った拍子に足の指に一本の線が通ったような気がしたが、感覚はあっという間に逃げ、そこにはただの、自由にならない肉が残っているだけだった。 船を降りよう そう決めていた気持ちが揺らぐ。 見栄も体裁もふっ飛ばして泣き続けるサンジを前に、ゾロは深く溜め息をつき、焦ることはないのかもしれないと、自分に言い聞かせた。 む。落ちない。 (でも怯まない) サンちゃんには前もどこかでジョンの唄を歌わせましたね。だって似合うから〜。 |