火の出るような勢いで睨みつけ、ゾロを黙らせてから、サンジがゆっくりと言った。

「紛争を、バラティエが抑えれば問題はないんだな」

エースが両手を挙げて降参のポーズを取った。

「けど、ただ抑えるんじゃ奴は逃げるだけだろう」
 
ぎりぎりと、今度は拳を噛み締めるサンジを横目に見ながら、ゾロが聞く。

「それはわからねえな。一旦退いて次の機会を狙うってのもアリだろうが……だが奴にとっても
ここまで周到に詰めてきた計画だ、最後の最後でゴリ押しになったとしても、強引に決着を
付けようとするかも知れない」
「……いつだ」
「あ」
「いつ、奴は手を出してくる」
「着任は一週間後の予定だ」
「クソ……早過ぎだ、それじゃ何もできねえ。国王軍を呼び戻すにしたって……」
「国王軍が、奴の手先じゃねえ保障はねえぞ」

サンジがはっとしてゾロを振り返った。

「ここはお前が何とかするしかねえんだよ、サンジ」
「……」
「俺と、俺の呼んだ奴が手を貸す」
「それだけじゃ……」
「ああ。力と体裁が必要だな」
「は?」
 
サンジが目を見開く横で、エースが面白そうな顔をした。

「何か策でも?」
「その前にアンタ、ほんとに味方なのか」
「あ? 酷いなあ。さっき《力を合わせよう》っつったじゃねえか」
 
ゾロがサンジの方を確認するように見た。多少やつれてはいるものの、顔を覆っていた靄は
完全に晴れ、瞳は力強く光っている。

「サンジ」
「あぁ、何だよ」
「お前がこの国の正式な継承者になれば、国は息を吹き返すんじゃねえか」
「はっ!?」
「バラティエを継げ。俺が司式する」
「はい?!」
「俺は司祭の免許も持ってんだ」

……

再び沈黙が辺りを支配した。

と、

「ぶはーっ!」

いきなりエースが噴き出し、大笑いしながら酒を注ぎ足しに立った。

「ハハハハハ、やっぱり面白いなあ、お前!」
「なっ……」
「異存は」
「何言ってるか、ちっともわかんねえ! この、インチキ!」
 
サンジがまた脚を出すが今度は蹴るものがなく、空に浮いたところをゾロの腕が掴んだ。

「今この国に残ってる奴を、一人でも多く引っ張り出せ」
「……」
 
すっかり夜の闇に包まれた部屋の中、三種類の違う気が同じ強さでぶつかり合っていた。

生まれたてで、荒々しく、純粋な魂と、
既に色々なものを見聞きし、このまま熟れた振りでやっていこうと決めている魂と、
堪ったものを最後に吐き出す場所を探している、静かに燃える魂だった。









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